Sasha Selipanov, Head of design

Beauty as a consequence of technical innovation

全く新しいカテゴリーのクルマ その最初のデザインを産み出すことはとても大変な作業です。ケーニグセグのデザイン責任者であるサーシャ・セリパノフほど、この仕事に適した人物はいないでしょう。スポーツカーやメガカーのデザインをリードする豊富なポートフォリオを誇るサーシャと彼のデザインチームは、ジェメーラのスタイリングを描き出す作業を通じて、とても多くの労苦を経験したと話します。

ジェメーラのデザイン−−何よりそれを“ケーニグセグらしく”するために彼らが考えた内容について、ビジュアルやエモーショナルな側面での考え方を中心に、サーシャ自身にその想いを聞く機会をえました。

 

−−ジェメーラというクルマには、デザインとしてどういった“ケーニグセグらしさ”が落とし込まれていますか?

どんなデザインにおいても言えることですが、何よりまずプロポーションが最も重要です。それはクルマのシルエット、つまりサイドビューを見たときに最もよく現れる部分です。ジェメーラのキャビンは、これまでのケーニグセグのモデルと同様に可能な限り前方に押し出されており、俊敏で前へと飛び出すような印象が与えられています。オーバーハングを徹底して短く描き出すことで、グッと地面を掴むかのように車体の四隅に置かれたホイールが、圧倒的な存在感を放っているのです。 私たちデザインチームは、表面のシンプルさ、何よりもボディのラインを強調することで、“メガカー”としての、ケーニグセグのアイコニックなシルエットを構築することを追求しました。

 

−−ジェメーラのデザインにおける指針とは?

上記に挙げた通りの“メガカー”としてのスタンス、クルマというとしての本質を捉えながら、新たなに4シーターという従来とは異なるベクトルの思想をそこに違和感なく落とし込む作業が私たちの目標であり、指針でした。その点では、ジェメーラをひと目みた際に、誰もが驚きを体験してもらえる形に仕上げられたと自負しています。

実際にジェメーラが走る姿を見た際、誰もが最初にこれは2人乗りのミッドエンジン・パフォーマンスカーと思うはずです。

しかし、ジェメーラが目の前に止まり、Bピラーのない巨大なドアが開くと、誰もがその中にある4シーター空間を見て一様に驚きの声を挙げるのです。圧倒的なパフォーマンスを感じさせながら、実際には車内でゆったりとケーキを食べることが出来るようなクルマ−−それこそがジェメーラの意外性であり、最大の魅力だと考えます。

 

−−ジェメーラは車内の仕上がりこそがキモなのですね!

ジェメーラの内装は、世にあるフルサイズのハイエンド4シーターGTの中でも、かなりスポーティな部類に入ります。私たちはこのクルマを、従来の4シーターGTのようには見せたくなかったのです。ジェメーラは、何より“サラブレッド・メガカー”なのですからね。そう、特別にして特別な、唯一無二の存在であることが重要なのです。 一見2シーターのメガカーのように見せながら、ひとたびドアを開ければ「ワオッ!」と思わず声が出てしまう。これこそが、ジェメーラというパッケージングの素晴らしさです。

ジェメーラの内装を描き出す上では、退廃的な古き良き時代の高級感ではなく、一切妥協のない、それは全く新しい時代に向けた“メガカーらしさ”を落とし込むことに力を注ぎました。

居住スペースの快適性を追求する作業においても、手抜きは一切ありません。確実に体をホールドするパッド入りのメモリーフォームシート、8つのカップホルダー、フロントとリヤの双方にApple CarPlayを搭載したエンターテイメントスクリーン、そして乗員分の必要な数のカップホルダーとUSB充電ポートまでを備えています。11スピーカーのサウンドシステムは、もはやこの世のものとは思えないほどの臨場感あるサウンドを奏でます。

−−独特な形状と機能をもつドアが印象的なステップインですね。驚かされるのは4人乗りなのにBピラーがないことですが、これはどうやって実現したのですか?

ケーニグセグが特許を取得済みのsynchro-helix doorsは、4シーターGTのジェメーラではさらに劇的な効果を発揮します。ドアの長さが増したことで、ドアが開いた状態での上辺は高くなりましたが、ドア自体は従来の2シーター・モデルと同じ小さなフットプリントで開くことがポイントです。 これこそがクリスチャン・フォン・ケーニグセグが追求するドアソリューションの美しさであり、ドア自体の長さを魔法のように消して目立たなくさせているのです。

そして、Bピラーを取り除いたことで、乗り降りがしやすくなっているのも大きなメリットです。ジェメーラのキャビンには、基本的に前後の乗員の乗り降りを妨げるものがありません。リヤシートへの乗り降りのためにフロントシートを動かす必要がないことは、“2ドアモデル”としては画期的な出来事です。

さらに、ルーフの一部がドアの開口部の形状で切り取られているため、車内へのアクセスはより容易になっています。従来の2+2のグランドツアラーとは異なり、リヤシートへの乗り降りの際に、フロントシートの背もたれを前に倒し頭を低く下げた格好で乗り込む必要がないのです。ジェメーラは真の4シーターです。なぜなら、4人の乗員全員に、平等に最良の快適さを提供することができるのですからね。

 

−−十分なラゲッジスペースも確保されていますか?

はい、驚くべきことに、ジェメーラには4つの機内持ち込みサイズのキャリーケースを収納することができます。リヤに3つ、フロントに1つ(寝かせた状態で)。リヤシートの後ろにあるコンパクトなガラスパネルはヒンジ式で立ち上がり、キャリーケースを縦に3つ並べて、底の深いラゲッジコンパートメントに収納することができます。

モノコックの裏にはエンジンを軸としたパワートレインなどの機能が存在しますが、業界標準で最も小さいと言えるエンジンを開発したことで、十分なラゲッジスペースを確保することが可能となったのです。

 

−−スタイルの面では、どのようにして技術的な要素を解決したのですか?

まず何よりも機能性を重視してデザインの作業に取り組みました。ジェメーラのエクステリアデザインは、その内側の機能性を優先して描き出されたのです。もちろんボディにも多くの目的がありますが、そのほとんどは効率性、つまり空力やドライブトレインの冷却に関するものです。

その結果として、ある種の自然な美しさが生まれていると考えています。私たちは目的のない形をデザインすることはありません。

例えば、空力学的に機能する通気孔を兼ね備えたテールライトは、2000年のCC8Sモデルで初めて採用されたケーニグセグ独自のアイデアです。ジェメーラでは、このコンセプトをさらに一歩前へと進めて、ヘッドライトとテールライトの双方に空力機能を持たせました。ライトの下にあるエアベントは空気抵抗を減らし、周囲の空気の流れを整えることに役立つだけでなく、見た目においても優れています。

ライトの内部では、ユニークな形状のリフレクターとLEDライトシグネチャーがケーニグセグ独自のものとして開発されています。そのため、フロントライトとリヤライトの双方で均質なデザインが実現されていて、私たちはこのデザインに大きな誇りを持っています。

また、ケーニグセグでは初めてサイドミラーの代わりにバックカメラを搭載しました。これらのカメラからの情報は、室内の2つのコーナーディスプレイに送られます。通常はウイングミラーがあるところに、小型のカメラを配置することで、使い勝手を向上させながら空気の流れに対する抗力を向上させています。さらに、ADAS(先進運転支援システム)やバーズアイビューカメラも搭載しています。

 

−−トップマウントされた上方排気のAkrapovic製のチタンエキゾーストは、リヤから見ても印象的です。デザイン性においてもこれは重要な要素でしたか?

ユニークなエクステリアと素晴らしいサウンドに加えて、トップマウントの配置は実際の性能面でもメリットがあります。エキゾーストパイプの長さを削ることで、重量の低減、背圧の低減、そして効率的なパワートレインのレイアウトまでが実現できるのです。エキゾーストのデザインは、ジェメーラのエンジンに最適なパッケージングを設計した結果であり、それが最終的にはデザインとしても良い効果をもたらしているのです。

パワフルな3本のビッグボアシリンダーから放たれる独特な力強いサウンドは、ジェメーラの“メガカー”としての魅力を格段に高めることにも貢献しています。

 

−−ホイールのデザインも新たなものですか?

ジェメーラのために、9本スポークのAirCoreカーボンファイバー・ホイールをデザインしました。このホイールは、新しいデザインのケーニグセグ製ブレーキキャリパーの視認性を高め、スウェディッシュ・デザインのルーツからインスピレーションを得た、非常にシンプルで控えめな姿をしています。

 

−−フロントセクションのデザインについても教えてください。

クルマを正面から見ると、目的意識のある力強さが見て取れるはずです。意味のある強さ−−社会性のある動物である私たち人間には、その進化過程において人間の特徴を認識するようにプログラムされていて、例えばクルマのフロントフェイスと人間の顔を関連付けるなど、何かしらの人間的な特徴をデザインの中に見出すことができます。そのため、ジェメーラのスタイリングではあからさまな攻撃性を出さないことに注力しながら、しかし自信と力強さについてははっきりと表現することを目指しました。フロントからサイドのプロファイリングに至るまで、ソリッドなラインが力強いショルダードライブのデザインへと移行していきます。そのアーキテクチャは、ケーニグセグというブランドの初期のデザインからインスピレーションを得た、実に逞しく、まるで一枚岩のような強固な特徴を誇っています。

 

−−ジェメーラはあなたがデザインした最初のケーニグセグのクルマですね。 デザインをする過程でどのような想いを抱きましたか?

私の考えるデザインは、機能の後に形が付いてくることが理想です。ジェメーラの場合は、機能そのものが非常に革新的なので、それに形が合致して、結果的にデザインが非常にクールなものに映るようになりました。今までにないパッケージングと技術革新を実現したジェメーラは、自動車界におけるひとつの金字塔だと思っています。 そのため、ジェメーラをデザインすることは非常に難しく、同時に非常にやりがいのあることでした。真に新しいもののための形を描き出すことは、すべてのデザイナーにとっての夢ですからね。

 

All data is provisional.